原稿寄稿

消費税の本です。この中のごく一部ですが、私の原稿が入っています。著者は租税法業界で著名な酒井克彦先生です。

「税理士業務に活かす通達のチェックポイント―消費税軽減税率Q&A等の検討と裁判事例精選10―」というタイトルです。

インボイスと独禁法

インボイス導入により、免税事業者は課税事業者との取引ができなくなるんじゃないかという話もあります。インボイス導入後、6年間は経過措置があるので、いきなり取引が打ち切られるということはないと思っており、仮にあるとすればインボイス導入以外の原因かと存じます。なお、インボイスと独禁法のQAでは課税事業者側が税込の取引価額を一方的に著しく引き下げる等の場合は独禁法に抵触するかもしれないそうです。

経過措置があるといっても、仕入税額控除が満額できないため、できる分まで税込の取引価額を引き下げようとすることもあるでしょう。

こういうのは独禁法上どうなるか?というと、インボイスと独禁法のQAを見る限り、許容範囲に見えます。インボイスと独禁法のQAでは、やはり、税込の取引価額を一方的に著しく引き下げる等の場合は独禁法に抵触するかもしれないそうです。

というわけで、取引価額の再交渉を行い、支払額を現状と同様にしてもらうように交渉するか、消費税分の引き下げを甘受するか、あるいは、課税事業者になって消費税を納めるかという形になるのでしょうか。なお、消費税の計算方法に簡易課税というのがありますが、この方法をとることにより、原則的な計算をした場合に比べて納める消費税が多額になる可能性もあります。なお、原則的な計算は業種にもよりますが、税理士が関与していないと一からやるのは困難と思います。

専ら当該特別会計を設ける国又は地方公共団体の一般会計に対して資産の譲渡等を行う特別会計とは?

 消費税法上、原則として、国や地方公共団体が特別会計を設けて行う事業については、消費税の課税対象となります(消費税法60条本文、一般会計は課税されません)。ただし、「専ら当該特別会計を設ける国又は地方公共団体の一般会計に対して資産の譲渡等を行う特別会計」であれば、一般会計と一体とみなして取り扱うため、課税対象とならなくなります(消費税法60条但し書き、消費税法施行令72条1項)。

 この「専ら…一般会計に対して資産の譲渡等を行う特別会計」というのは、消費税法基本通達16-1-1に例示されています。

(1) 専ら、一般会計の用に供する備品を調達して、一般会計に引渡すことを目的とする特別会計

(2) 専ら、庁用に使用する自動車を調達管理して一般会計の用に供することを目的とする特別会計

(3) 専ら、一般会計において必要とする印刷物を印刷し、一般会計に引き渡すことを目的とする特別会計

 これは例示なので、それ以外の類似した性質をもつ特別会計でも許容されると考えられます。ここで気になるのが、これに加えて、「取引額の95%以上が一般会計との取引」と説明される場合があるとのこと。私の判断としては法律、施行令、通達に一切言及されていない数値基準を持ち出すのは意図がわかりません。

ですので、「専ら…」という点については、数値基準を気にせず、特別会計の目的を勘案して決めておけば十分かと思います。

非課税取引(国等の手数料)

➀法令(当該規定では、地方公共団体の条例等も含む取扱いなので注意)に事務が定められている手数料かつ②法令に基づき手数料を徴収する規定となっているものが該当。

➀を満たし、②は満たさない手数料についても一部該当(国家試験の受験手数料、資格証明書発行手数料等)。

というわけで、国等の手数料であっても、①法令に事務の定めがない手数料、②法令に事務の定めはあるが、当該法令に手数料を徴収する規定がない手数料で、消費税法に規定がないものなどは消費税が課税されるので、注意が必要。

インボイスの様式対応

インボイスの記載事項は以下の6つです。

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産
の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及
び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等(消費税額及び地方消費税額に相当する金額の合
計額をいいます。以下同じです。)
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

インボイスは手書きで作成してもOKとされていますが、ネックになるところが④及び⑤でしょうか。複数税率が併存している業種だと面倒ですね。

なお、⑥も案外面倒かもしれません。会社員が会社経費になるものを立替購入したときなどは、いちいちインボイス発行になりますし、インボイスの控えとして交付先の名前を残さないといけないですし。なお、名前とは、立替購入した人の氏名ではなく、立替購入した人が所属する法人等の名前になるので留意が必要ですかね。