公認会計士の競業避止義務

競業避止義務とは、株式会社でいえば、当該株式会社の取締役が、当該株式会社と同業の業務に係る取引を禁ずる義務をいいます。競業避止義務がないと、取締役が自己の利益を優先して、会社に損害を与えてしまう等の理由からこのような規定になっています。

競業避止義務は、取締役会がある会社の場合、取締役会の承認があれば、取引が許容されます。株式会社以外の法人でも似たような規定があります。公認会計士が集まって作る監査法人でも、社員(株式会社でいえば株主と取締役を兼ねたような立場の人。従業員ではありません。)に対し競業避止義務があります。

公認会計士ができる業務というと、監査証明業務といわゆるコンサル業務があります。コンサル業務の方は、株式会社の取締役と同じように、他の社員の同意が得られれば可能です(公認会計士法34条の14第2項但書)。ただし、取締役会とは異なり、他の社員全員の同意が必要なので、監査法人の規模次第ではハードルが高いです。

それでは、監査業務はどうなのかというと、これは他の社員全員の同意があっても駄目です。34条の14第2項の但書で、「コンサル業務である場合において」と限定がされているので、監査業務は例外なくアウトということになります。

典型的なパターンとしては、ある監査法人の社員が、同人が運営する個人事務所で監査業務をしているというパターンです。

公認会計士試験の所感

会計学(午後)の問題で、国際会計基準の問題が出たようですね。受験予備校でもある程度はやっており、日本の会計基準も国際会計基準に近い内容にはなりつつありますが、それでも厳しいと感じた受験生が多そう。実務でも、国際会計基準を適用している上場企業は多くなく、それほど馴染みがないといえばないですね。

監査論の第2問は、公認会計士試験に合格して実務経験を積んだ人が受ける修了考査の問題かと思いました。実務経験がない受験生にとっては相当難しいような。監査基準を覚えているだけでは対応できず、そもそも監査に対する潜在能力が試される感じですね。

金融庁が監査法人を直接監督?

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2460Q0U2A820C2000000/

公認会計士が行う財務諸表監査は、定期的に金融庁の検査対象となっており、非常に厳しい監督が行われている印象ですが、直接監督とはどのような体制になるのでしょうか。

直接監督するとなると、公認会計士の側にも不正の調査権等を担保しないと、金融庁が思い描くような厳格な監査はできず、疲弊するのは監査現場の公認会計士ばかりなりということになると思いますが、どうなるでしょうか。

監査法人の社員の競業避止義務

・会社法を勉強している人に取っては、取締役の競業避止義務がおなじみかも(会社法356条1項1号)?

・会社法では、取締役の他、合名会社の業務執行社員にも競業避止義務がある(会社法594条1項1号)

・監査法人の社員は、合名会社の業務執行社員と同じく、出資者であり、かつ、会社の業務執行を担うので、法的には同じような立場であり、公認会計士法で同じような競業避止義務が規定されている(公認会計士法34条の14)

・合名会社の社員の競業避止義務の例外として、他の社員全員が承認すれば、競業避止義務OKという規定があるが、公認会計士法では公認会計士法2条2項の業務に限られる(いわゆるコンサルティング)

・ちなみに、公認会計士法2条1項の業務というのは、監査業務や証明業務をいう

・監査や証明業務は何があろうと法的に許されないので、例えば、ある監査法人の社員をやりながら、自身の個人事務所で監査業務又は証明業務を受嘱する等の行為は許されないと思われる

公認会計士法上の大会社等

・会社法の大会社とは似て非なる概念なので注意。監査報告書にサインする期間の上限や、他の会計士を補助者に入れる必要がある等の制限が生まれます

・具体的には、公認会計士法24条の2にあるように、以下のとおり。

一 会計監査人設置会社(資本金の額、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額その他の事項を勘案して政令で定める者を除く。)
二 金融商品取引法第百九十三条の二第一項又は第二項の規定により監査証明を受けなければならない者(政令で定める者を除く。)
三 銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行
四 長期信用銀行法(昭和二十七年法律第百八十七号)第二条に規定する長期信用銀行
五 保険業法第二条第二項に規定する保険会社
六 前各号に掲げる者に準ずる者として政令で定める者

・1号の会計監査人設置会社の場合は、資本金100億円未満かつ負債1000億円未満なら該当しない(公認会計士法施行令8条)。

・2号はいわゆる上場会社など。資本金5億円未満(又は直近3年間の平均売上高が10億円未満)かつ負債が200億円未満。会社法の大会社に該当しない会社と類似(公認会計士法施行令9条1号)。上場会社かつ会計監査人設置会社の場合は、2号が適用。

・ちなみに公認会計士法24条の2第6号にいう政令で定める者とは、公認会計士法施行令第10条にあるように、以下のとおり。

一 全国を地区とする信用金庫連合会
二 全国を地区とする労働金庫連合会
三 全国を地区とする信用協同組合連合会
四 農林中央金庫
五 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第三十九条第一項の規定により会計監査人の監査を受けなければならない独立行政法人
六 国立大学法人及び大学共同利用機関法人
七 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第三十五条第一項の規定により会計監査人の監査を受けなければならない地方独立行政法人

というわけで、信用金庫、労働金庫、信用協同組合等は、出資金が100億円以上、又は負債が1000億円以上だったとしても、公認会計士法にいう大会社等には該当しません。